こわい箱
だれも言わなくても
自分でリミットを知っている
だから動き出す時がわかるんだ
心の奥の深いところにある気持ちに従って行動すれば
何もかもうまくいく
それは社会的成功という低いレベルではなくて
個人的成功という高いレベルのこと
自分の心に向かってほほえむことができれば
他のだれにだってやさしくできる
やさしいということはとても悲しいことだ
とても悲しいということはとてもやさしいことだ
だから気づかないふりをした方が楽な時がある
でも気づきたくないばかりに遠まわりを続けて
たどり着きたい場所からわざと離れる人がいる
箱の中にはいっているものがとてもいいものと知らないで
こわくて開けずに通りすぎている
箱はこわいものと大人になって思ってしまったから
子供の頃 箱はいつもたくさんそばにあって
ふたはいつも開いていた
箱はこわいものとどうしても教えられるのが
大人への過程だけど
その後 箱はこわくないと自ら知るのが人間としての次の過程だ
気づくために私たちはいろいろな実験や失敗を繰り返す
とりかえしがつかないと思うことだってたくさんある
でも とりかえしのつかないことなんてない
ひとつのことが終って他のひとつのことが始まることに
まったく関連がないってことはないはずだから
人々がそれぞれ毎日を楽しく暮らすことのできる秘密の
方法というものがあって
それを知るためにはある鍵が必要だ
そしてその鍵を 意識していようといまいと
私たちだれでもが持っている
著者:銀色夏生 『微笑みながら消えていく』より